読了記録 その25
『生きていくうえで、かけがえのないこと』
(吉村萬壱 / 亜紀書房 / 1,300円 / 2016年9月10日発行)
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
25のテーマについて訥々と語るエッセイ本。
鬱蒼とした森を歩いている。昼間だが、葉が生い茂り、ほの暗い。
歩き続けていると、水場が現れる。
池というには活気がなく、沼というほどには澱んでいない。水は濁ってはいないが、底がはっきり見えるわけでもない。
水面か水底か曖昧なまま眺めていると、キラッと光を反射した何かに気づく。
よく見ようと手を伸ばすと、途端に自分の影と小さな波で見失う。
気のせいだったと思い、元に戻って眺めていると、やはりどこかでキラッと、時にはぼんやりと光る何かがある。はっきりと掴めないが、確かに何かがそこにある。それが目の隅から離れなくて、暫くじっと眺めている。
そんなイメージが浮かぶ本。
訥々と、なんなら暗い雰囲気の中で突然、ぞくりとするような魅力的な文章にかち合う時がある。
「日常」と「非日常」の狭間を除き見てしまったような、怖いけど目が離せない光るもの。そんな出会いがある本だった。
【惹き込まれたテーマ】
・食べる
・休む
・ふれる
・悲しむ
・見る
・憎む
・見つめる
【覚えておきたい言葉】
・祈る時に我々は自然と眼を閉じるが、見えないものを見る場合には視力は必ずしも必要ではない。むしろ見えないからこそ祈るのである。一度でいいから脳の中の花ではなく、花の中の花そのものを心の目で見てみたい。
・ものを見つめ過ぎることには、どこか不気味なものを招き寄せてしまうところがあるのではなかろうか。
・恐らく世に詩人と呼ばれる人種だけが、私が立ち止まっていた地点を遥かに超えて、向こう側の世界へと踏み込んでいけるだけの資質を持っているのではなかろうか。
・あちら側に行ったきり戻れなくなってしまった詩人は、決して少なくないに違いない。